すごい! 過去SF名作の優れたモチーフを総動員した上で、全く新しい世界を現出させたエヴァンゲリオン
こちらウルトラマンになります(笑)。しかしこれって生物なんでしょうか。生き物だとしても、どう見たところでコスチュームをまとっているようにしか見えません。その上とてつもなく巨大であります。で、ウルトラマンが地球にやってきてからというもの、なぜか宇宙からさまざまな怪獣たちがひっきりなしにやってきては大暴れ。ウルトラマンはその成敗に多忙な日々を送るわけでありました。
凡人である我々は、そんなウルトラマンのいい加減さを笑って楽しむのが関の山なのですが、そのハチャメチャさゆえに無限の可能性を見出したのがエヴァンゲリオンの生みの親である奇才、庵野秀明氏でありました(多分)。
ヒト型最終決戦兵器エヴァンゲリオンは、人間のパイロットが乗り込みますし、一見マシンのように見えるわけですが、実はそうではなくて生き物めいた側面もあり、戦闘で腕がもがれれば新しい腕が生えてきたりします。
そして定期的に来襲する謎の敵「使徒」。こちらも機械なのか生き物なのか判然とせず、エヴァンゲリオンと同様の謎を秘めています。これらの諸条件はしかし、よく考えてみるとウルトラマンの場合とほとんど変わりません。
この設定に現実感を持たせるためにはどうすればいいか、と作者は(多分)考えた。説得力を持たせるための唯一の方法は、ある意図をもって両者を現出させた上位存在をおくことであり、それが聖書・キリスト教世界からのご都合主義的な引用にみちた謎めいた世界観であり、その象徴がゼーレであり、その意図が「人類補完計画」といったものなのでありました。
というわけで、この物語はエヴァンゲリオンと使徒の凄絶きわまりない戦闘シーンと、エヴァンゲリオンのパイロットとなる少年少女たちを巡る物語を中心に、「人類補完計画」が絶妙なスパイスとして加わり、一つの世界を創造することに見事に成功しているのだといえましょう。
それにしても優れた過去SF作品を臆面もなく再利用する庵野秀明氏の貪欲さにはホトホト感心します。個体として行き詰まった人類を一つの群体として再生させるという「人類補完計画」は、A.C.クラークの傑作『幼年期の終わり』のアイディアと変わるところがありませんし、第三東京市の人々の生活をスケッチする印象的なシーンの背景に流れる音楽は「太陽を盗んだ男」のテーマ。「破」で初めて登場した海洋研究所への入所者に対して行われる徹底的な滅菌処理の様子は「アンドロメダ・・・」そのままで、エヴァンゲリオンのパイロットが乗り込む「プラグ」はLCLという液体で満たされ、パイロットはその液体にずっぼりと浸かって液体を直接呼吸するという設定は「謎の円盤UFO」の異星人と同じです。
ただそれが単なる再利用にとどまらず、その先にぶっとんだアイディアが置かれているところがすごい。例えばエヴァンゲリオンとパイロットは神経レベルで直接接続されますが、そのシンクロ率が高すぎると、なんとパイロットは生物個体としての自我境界が維持できなくなってLCLの中に溶けて消えてしまうのです(!)。
「自我」を巡る問題はエヴァンゲリオンの中心的なテーマの一つで、「人類補完計画」と呼応する通奏低音になっています。つまりエヴァンゲリオンとは、自己不確実で対人恐怖気味のイカリシンジ、自分の優越性を示すことに関して強迫神経症的なこだわりのあるアスカ、そして「私が死んでも代わりがいるもの」と達観し、我執を持たぬが故に怖いものがない綾波レイの3人が、それぞれの抱える神経症を治療していく物語だと見ることもできます。度重なる使徒との戦闘を通じて、彼らはそれぞれなりに人間的に成長していきますが、しかしその先に横たわっているのが自我の存在を真っ向から否定する「人類補完計画」なのでありました。
一昨年の2007年に公開された新劇場版第1作「序」はオリジナルTV版全26話のうちの6話までをカバーするにとどまり、いささかインパクト不足でありましたが、今年公開された第2作「破」は一気に19話まで到達していますから、4部作だと発表されてはいますが、あと映画2作分もの余地は残っていないような気もします。しかしこの先さらにあっと驚くようなストーリー展開があるのかも知れません。
それにしても「破」に収められた戦闘シーンの壮麗見事なこと。上空遙か彼方に広がるあのATフィールドの痕跡を見よ! 素晴らしい戦闘画面の数々がくり返し鑑賞できるのであれば、ブルーレイレコーダー+薄型テレビという大型出費も厭わずと、そう勝手に心に決めている今日この頃ではありますが、この度の映画化でエヴァンゲリオンもその製作は3回目。エヴァンゲリヲンとともにリアルタイムに生きられる幸せを噛み締めながらも、どうか今度ばかりは、誰もがあっと驚き納得のいく素晴らしいクライマックスを迎えられますようにと、世界中の神様にお祈りしつつ、2年後の第3作「Q」を心よりお待ちしております。アーメン。
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