わが心のSF映画その6 ソイレント・グリーン
野田秀樹14回公演「パイパー」観劇によって記憶の奥底からよみがえり、急遽登場いたしましたのがチャールトン・ヘストン主演、1973年MGM作品「ソイレント・グリーン」であります。
舞台となるのは2022年、人口4千万人にまで膨れあがったニューヨーク市。激しい温室効果のおかげで常時蒸し暑く、自然という自然はことごとく失われた殺伐とした環境の中で、人々はただひたすらソイレント・レッド、ソイレント・イエローといったクラッカーのように味気ない人口合成食品で食をつないでいたのでありました。
典型的なアンチ・ユートピア物語でもあるわけですが、温室効果のために蒸し暑くなっているなど、気象変動については1973年時点でかなり正確に予測していますね。まぐれあたりというか単なる偶然でしょうけど。で、ヘストン演じるのはソーンという名の刑事で、彼はなぜかソルという老人と同居しております。
さて、このたびレッド、イエローに次ぐ画期的な合成食品ソイレント・グリーンが開発されました。海洋性プランクトンが原料ですが、とにかく栄養価が高い。配給日の火曜日にはかならず受け取るように、などとテレビが告知しております。
そんな折も折、独占的食品加工製造会社ソイレント社の顧問(ですよね?)役をしている街の大物が、バールで頭を割られて殺されます。ところが彼には死を覚悟していたような気配があって、しかも深い罪悪感を抱いていて教会で懺悔などもしておりました。いったい彼は何故、誰に殺されたのか、彼が抱えている心の闇とは何なのか。そのようにして刑事ソーンの捜査が始まる訳であります。
ソーンは捜査の過程でソイレント社関係の上流階級に入り込み、そこで娼婦として飼われているネーチャンとねんごろになったり、まあいろいろありますが、スズメの涙ほどの野菜やら牛肉やらをせしめてソルと2人、しょぼいディナーを心から楽しむシーンなど、なかなかヒネリが効いています。
そうこうしているうちに、事の真相に最初に気付いたのは年老いたソルでありました。彼は賢者の集まりのような「交換所」に1人出向き、食糧の材料に使えるような海洋性プランクトンなどすでに死滅していること、ソイレント・グリーンは恐るべき材料から作られていることを知るのでした。
あまりに恐ろしい真実に耐えられず、ソルは安楽死施設「ホーム」へと向かいます。ソルを追ったソーンは彼を救うことはできませんでしたが、今際の際にはどうにか間に合って、ソルから真実を聞かされます。さて恐ろしい真実とはいったい・・・・
ところが困ったことに、この恐るべき真実があんまり恐ろしくないのですね。なんといっても日本は火葬の国ですから、まあちょっと気持ち悪いかなと思う程度のことで済んでしまうのですね。「ソイレント・グリーン」は東西文化の相違が痛感できるなかなか得難いSF映画だといえましょう。
ところでもっとも有名な人食い犯罪人といえば、トマス・ハリスが創造したハンニバル・レクター博士でしょうが、変わったところでは、A・C・クラークも人食いを題材にした「神々の糧("The food of the Gods")」という短編を書いています。
「神々の糧」では、その昔人間は動物や植物を食べていたと聞いただけで人々が卒倒してしまうという遠未来の話ですから、ソイレント・グリーンとも随分設定が違いますが、クラークの短編のなかではユーモアに富んだ一編といえるのではないでしょうか。『太陽からの風』に収録されていますから、お暇でしたらぜひどうぞ。
ソイレント・グリーンの原材料について、少なくともあんまり衝撃的には感じられなかったワタクシですが、「ホーム」の設定には参りました。高齢化が激しく進行する今日、とにかく高齢者が心安良かに暮らせるような社会を作り守っていかなければならないと、マジで痛切に感じたわけです。
この文脈で観るならば、「ソイレント・グリーン」は今日的問題を提起し続けている貴重なSF映画だということもできるでしょう。
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