禁断の惑星が残したもの
「禁断の惑星」では、SF的に全く初めてというアイディアはそう生まれていません。たとえばロボットのアイディアは小説では1920年にチャペックが考案しているし、映画でも1927年の「メトロポリス」が元祖でありましょう。しかし、現代のSFにまで相通じる何かがどこまで残っているかと遡っていくと、その終着点は「禁断の惑星」だといってもいいのではないでしょうか。
よく俎上に乗せられるのがクレル人が残したロボット、ロビーであります。ロビーはTV「宇宙家族ロビンソン(Lost in Space)」のフライデーとして受け継がれて、やがてスターウォーズのR2D2とC3POとして開花したのだとか。ググって見ると、フライデーはロビーと同じデザイナーが手がけたものだそうです。知りませんでした(汗)。
確かによく似てますね。ロビーとフライデーは直系でありましょう。「禁断の惑星」のパトロール船もV「宇宙家族ロビンソン」で一家が載っていた宇宙船も同じような円盤型でありました。しかし直系遺伝するのはここまでで、「禁断の惑星」のディテールはここから突然変異を始めます。
その最たるものが宇宙船であります。1956年といえば、まだスプートニクさえ打ち上げられていませんでしたが、すでに米SF映画界では宇宙空間を炎を上げて突き進むスペースクラフト像は古いということに気付いていて、「禁断の惑星」では円盤形の宇宙船を登場させました。円盤は「ロビンソン」には受け継がれましたが、しかし空飛ぶ円盤に人間が乗るというのはどうしても違和感があるわけです。
しかし真空の宇宙空間でロケット型宇宙船というのは絶対的に古い。そこで円盤型宇宙船と類似点がありながら、人類が搭乗するにふさわしい円盤型ではないスペースクラフトとはどういうものか、ああでもないこうでもないとデザインスケッチを何百枚も重ねて誕生したのがスタートレック・エンタープライズ号の勇姿だったのです(多分)。
エンタープライズのデザインプロセスについては、ここで書きましたのでご覧いただくとして、煎じ詰めればそういうことだったのではないかと想像してます。ただしエンタープライズはあんな形になったために着陸できなくなりました(着陸できるようになったバージョンもあるらしいですが、よく知りません)。
そこで「転送("Beam me up, Scotty"」となったわけですが、この「転送」のビジュアルも、ほとんどそのまま「禁断の惑星」に登場しているのは、SFファンならご存知のとおりです。ただ「禁断の惑星」では、超光速航行から通常航行に切り替わるときのショック緩和のため、お立ち台みたいなところにたって怪しい光線を浴びるという設定でありました。
転送、スペースクラフトのデザイン、そしてどうしたことかと植民星をパトロール船が訪れるという設定といい、「禁断の惑星」と「スタートレック」を見比べてみると、あれこれ感じることが多くてSFファンとしてはたまりません。ちなみに「スタートレック」のプロデューサー、ジーン・ロッデンベリーは、当初企画をCBSに持ち込んで、「ロビンソン」の厚い壁に阻まれたのだとか。SF映画・TV界も様々な栄枯盛衰があるものであります。
ところで映画界は物持ちが良いらしく、「ロビー」はその後もあちこちに「出演」しています。「刑事コロンボ」にも登場しますが、この話に登場する天才少年はスピルバーグならぬスティーヴン・スペルバーグでありました(笑)。ユーモアがあってよかったですね。ピーター・フォークも81歳、アルツハイマー病でありますか。嗚呼。
話はまた変わりますが、滅亡したクレル(Krell)は、アメリカ製のハイエンド・アンプメーカーのブランド名としても使われております。無限のパワーが湧き出るアンプということでありましょう。ま、あちらの世界には何百万、何千万という大金を投じ、命を賭けて何やらに取り組んでおられるオジサマが大勢いらっしゃるようですので、野暮なことを申し上げるのはご遠慮いたしましょう(汗)。
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