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2008/11/27

わが心のSF映画その2 アンドロメダ・・・

51llqxvnwl_ss500_「ウエスト・サイド物語」(1961)、「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)などで著名な映画監督の巨匠ロバート・ワイズ1971年の作品で、原作はマイケル・クライトン1969年の『アンドロメダ病原体(Andromeda Strain)』である。
宇宙船やら潜行艇やらといった乗り物が一切でてこない(笑)ある意味では地味な映画でしたが、SF好きな少年たちの心に刺さった一作でありました。

これも封切りのときは話題になったなー。「ミクロの決死圏」もそうだけど、この映画も邦題がよかった。「アンドロメダ・・・ 」ですからね。最後の「・・・」が 実に意味深だったわけです。新聞広告では金魚鉢みたいなヘルメットのついた宇宙服のようなものを着た頭が半分禿げた男(アーサー・ヒル)がリネンにくるまれただけの赤ん坊を見下ろしている写真が使われていて、何なの何なの、ここ宇宙じゃないの、いったいどんな話なの、という強烈なセンス・オブ・ワンダー光線を発していた。アメリカ版DVDのジャケット写真がそれに近いけど、とにかくSFとしての設定が斬新で、火薬の炎と煙を上げて進む日本映画のケチなロケットを嗤うハイブラウな(笑)少年たちのこころを虜にしたのであります。

517hkhwjnbl_ss500_さて、このたび闘うべき敵は、なんと宇宙からの未知の微生物「アンドロメダ病原体」であります。生物兵器開発のために未知の病原体をもとめて地球を周回するスクープ衛星がアリゾナ州の辺鄙な町に落下。軍の車両が町に回収に向かうが、何故か突然消息を断つ。

そこで偵察機が航空写真を撮ってみると、そこいら中人がぶっ倒れている。町全体がスクープ衛星が収集した未知の病原体によって汚染され、住民が死に絶えてしまったのだ。

大変だったら大変だ、ということで、こういうこともあろうかと砂漠のど真ん中に極秘裏に作られているワイルドファイヤ研究所に各分野のトップの科学者が5人がはせ参じて、感染すると瞬間的に血液を顆粒状に凝固させてしまう宇宙からの未知の微生物「アンドロメダ病原体」から地球を守るために、焦りまくってあれこれ検査したり実験したり議論したりする5日間が、地味に描かれるわけである。

最大の手がかりは、何故か生き延びた町の生存者2人であった。ところが1人は健康な赤ん坊、もう1人は胃潰瘍でアル中の老人である。一見なんの共通点もなさそうなこの2人だけがなぜ感染を免れたのか。病原体の性質や封じ込め方法を巡ってミステリアスでスリリングな展開が続くが、ロバート・ワイズがこの映画について、「最大のスターはセットだ」と語ったように、最大の見所は科学者たちが奮闘するワイルドファイア研究所のヴィジュアルとその設定にあった。地下5階まである研究所は下階にいくほど厳重な滅菌処理がされていて、一階下るたびにどんどん厳重になる殺菌処理を通り抜けなければならなず、そのプロセスがSF映画としては実に新しくて、「すげえなーすげえなー」と目を輝かせて見ていた訳ですね。

逆にいうと、この滅菌プロセスと研究所のビジュアルが古びてしまうと、この映画はもう終わりということになります。最近改めて見直して見て、全体にかなり古びていて素晴らしき空想科学技術というSF映画のキモになる点がそうとう劣化していることは認めざるを得なかった。もう35年以上前の映画ですからこれもやむを得ないでしょう。

51dp6f3b8bl_ss500_ ところで映画「アンドロメダ・・・ 」が強烈な印象を残しているのは、映画の封切り後に邦訳が出版されたクライトンの原作「アンドロメダ病原体 」が素晴らしいできばえだったことも影響している。ドキュメンタリーかノンフィクションか、はたまた軍の機密文書がそのまま流出したのかといった緊迫感溢れる筆致、というか表現方法に工夫が凝らされているうえに、映画では通り一遍だった滅菌プロセスやらなにやらが、それはそれは凄まじいまでのリアリティで描写されているのあります。

映画の場合は特に顕著だけど、時間とともに最も早く陳腐化して見るに耐えなくなるのがコンピューター回りの描写だが、映画も小説も「アンドロメダ・・・」の場合は、空想の比率が高いのと、キャラクタ・ディスプレイというド古いコンピュータ技術をベースにしたために、逆に陳腐化を免れているように見えるのは面白い。

しかしそれは、クライトンやワイズの手腕というよりも1960年代末という時代が生んだ幸福な偶然だったのでありましょう。同じクライトンでも「ジュラシック・パーク」に登場するワークステーションなんか、現実そのもののようで何のセンス・オブ・ワンダーもありませんでした。はー、デバッグご苦労さんご苦労さん、みたいな感じでしたものね。

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