120段広告って、おい東芝?
一体全部で何紙に出稿したのか分からないけど、まともなレートで計算すれば、朝日、読売両紙の媒体費用だけで4億円ほどはかかってますな。いろいろあってもっと安かったとは思いますが。で、何を広告したのかというと冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコンなど、いわゆる生活家電・白物家電で、題して「保存版 エコスタイルお買物カタログ」である。
ついにここまで来たのか、という感慨をワタクシは持った。この広告が断末魔のあがきでなければいいのだがと、東芝のためにワタクシは祈った。東芝は追いつめられている。その最大の原因は松下のパナソニックブランド統一戦略であり、副次的な原因は今年2月のHD DVDからの撤退である。
HD DVDプレーヤーは国内では「えー・・・国内でですね、HD DVDプレーヤーは(会場をまっすぐ見て) 約、1万台。約ですね、売れております」(詳しくはこちら)ということで、惨敗だった。売れない規格から撤退するのは当然としても、その撤退のしかたがいかにもまずかった。東芝はブルーレイについて「あんなディスク量産できるわけがない」と放言し続けて、その見通しがド外れだったことが露呈してしまったうえに、HD DVDの責任者が社長に正しく情報を上げていなかったらしいということまで漏れ伝わってしまったのである。HD DVDを巡っては東芝は滅茶苦茶だったんだな、という印象を持たざるを得ない。
東芝が早々にHD DVDから撤退を決めたのは英断だったといえるが、潔くソニー・松下連合の軍門に下ってブルーレイ連合に加わればよかったのに、妙な意地を張って当面ブルーレイには参入しない方針を固めてしまった。このお陰で東芝は、AVメーカーとして、そしてノートPCメーカーとして、決して自社製品だけで円環が完結しない中途半端なブランドに成り下がってしまった。
ウチのHDD内蔵DVDレコーダーは東芝製である。東芝にはマニアックな技術者(片岡秀夫氏)がいて、その彼が開発するRDシリーズのレコーダーは、インターネットに繋がってメールで録画予約できたり、ネットワーク経由でダビングできたり1フレーム単位での細かい編集ができたりといったマニアックなスペックが魅力だった。ワタクシが東芝のレコーダーを購入したのは5年ほど前のことだが、オタクっぽいユーザーは当然のように東芝を選ぶもので、パナソニックなんざ女子供と老人が使うものという雰囲気だった。
そのマニアックな東芝がブルーレイを諦めてしまったのである。東芝の昨今の新製品は従来のDVDディスクにハイビジョン録画できるのが売りらしいが、ワタクシはもう東芝は選ばない。だって、ブルーレイのソフトが流通し始めているものね。どうせ買うならブルーレイでしょ、やっぱり。
ノートPCの場合はどうせ買うならブルーレイとまではいかないが、意地を張ってブルーレイを搭載したダイナブックを作ろうとしないのは愚かしいとしかいいようがない。AVにしてもPCにしても、東芝が遠からずブルーレイに再参入するに違いないと私は確信しているが、それまでにツケがどれほど積み上がっているか、よそ様のことながら恐ろしい。
そしてこのたびのナショナルブランドのパナソニックへの統合である。それがどういう意味を持つのか、ワタクシには分からなかったが、10月1日のブランド統合からわずか2ヶ月足らずであるのに、その効果はすでに明らかになりつつある。
家電はなんでもパナソニックにしとけば間違いない。そういう雰囲気が強烈に醸成されつつあるのである。
プラズマTVビエラにせよ女流一眼のルミックスG1(笑)にせよ、旧パナソニック製品の広告については、ワタクシには代理店に丸め込まれたものばかりで、まったくしょうもない作品ぞろいだと思っているが、しかしパナソニックへと統合された旧ナショナル生活家電製品群のメッセージングとメディア展開手法には唸ったね。
「ナショナルはパナソニックになりました」などとは(多少はいっているかもしれないが)あえていわずに、パナソニックブランドの生活家電が持つ優れた製品特徴だけを実に巧妙に執拗に、繰り返し繰り返し訴求しているのである。
料理が熱いまま冷凍できる冷蔵庫。ああ、なるほど、こうやって子供の弁当のハンバーグが作り置きできるのね。市販の冷凍食品は危ないし、これっていいかも。パナソニックだけの「何とか洗い」の洗濯機。なんかわからないけどよそのものよりきれいに洗濯できそう。寝て起きりゃ、それだけでお肌がしっとりする空気清浄機。これって絶対いいじゃない!
アンチエイジング、エコ、そして毎日の生活を便利にする先進機能。それがテレビCMなどの金のかかるメディアだけではなく、JRの車内壁貼広告など細かいメディアもきめ細かく使ってジャブのように波状攻撃がしかけられているのである。本当に見事なものだ。
右を見ても、左をみてもパナソニック。プラズマテレビからドライヤーまでみんなパナソニック。もういいや、家電はみんなパナソニックにしとけばいいや。私ですらそんな気分になりつつある。あれこれ機能比較するのも面倒だしね。
これはまずいぞ、と東芝は思ったんだろう。このままでは生活家電事業は壊滅するかも、とパナソニックを恐れたのだろう。そこに年末商戦に向けて思い切った広告展開を、と広告代理店がささやいた。前代未聞、空前絶後の全国紙一斉怒濤の8ページ、フルカラー広告。これでどうだ! ということになったのでありましょうね、多分。
この広告を一番喜んだのは間違いなく広告代理店、おそらくはD通である。ビジネスとして大もうけできたうえに、長く語り継がれる輝かしき広告事例となることが確実だからだ。
そして一般消費者は「保存版」と銘打たれた8ページ広告に大したもんださすが東芝だなどと驚きもせず、東芝製品の優位性が刷り込まれるようなことも全くなく、あれが東芝の広告だったということさえほとんど意識することなく、新聞広告史上燦然と輝く120段フルカラー広告をただの新聞紙として新聞袋の底に押し込めたのでありました。
(つづく)
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